Masuk「マリチには見えないけど、あるんだね。例の扉が」
俺は静かにうなずき、扉の取っ手に手をかけた。
そしてゆっくり開きながらマリチの方を振り返る。
彼女はにっこりしながら手を振った。
――――――――――――――――――――――ドアをくぐるとまばゆい光に包まれ、一瞬吸い込まれるような感覚になる。
その後、目が覚めるような青空が視界に入り……
「えっ?」
俺は空の上に出た。
「もしかしてドアの向こう側はまさかのランダム配置!!?」
マズイ。魔導士系のジョブであれば何とでもなりそうだが、今はルーンナイト
いちおうサブクラスというシステムがあり、もう一つ予備クラス『ブロックナイト』がついているのだが、この現状を打破するには……?!
今、自分の体勢がどうなってるか最早わからないが、ものすごい速さで落下していることだけは確かだ。
「イチかバチか!絶対防御!!」
現在の高度も不明。ならば少しでも早い方がいいと判断し、俺はサブクラスのアビリティ『物理攻撃無効』を発動させた。
その直後。
ズドンッッッ!!
地面? に落ちた。
ものすごい土煙が巻き起こり、周囲にはちょっとしたクレーターができている。
さすがに軋む身体を少し動かしてみるが、どこかが痛む等はないようだ。
「耐えた……か」
どれほどの高さから落ちたかはわからないが、時間にしておそらく10秒ぐらい?
空気抵抗があるから実際にはわからないが、時速300キロぐらいでてた?てことは時速300キロの土の塊にぶつかっても無傷でいられることは分かったな。
(アビリティ使用という条件下ではあるが)土煙も晴れてきた頃合いを見て、俺は自分が作ったクレーターから這い上がった。
ザワ……
ん? 思ったより多くの人がいる。
そして土煙の中の人影(俺)の方に向かって目を凝らしている。
さっと周囲を見渡した感じ、ここは神社の境内とかそんな感じの場所だ。
なるほど……?
俺は周りに集まりつつあった人たちの視線を素早く避けてクレーターの中にそっと引き返すと、手のひらを上に向けて転移魔法の呪符を取り出した。
うん。逃げよう。
ブォォォン
我ながら英断である。
頭の中で思い浮かべたのは独り暮らしのアパートの自室。
実は一瞬ソーファン世界の街を想像したのだが、上手くいかなかったのだ。
つまりこっちの世界とあっちの世界は、転移魔法では移動できないという事だ。
一瞬にして自分の部屋に戻って少し冷静になったが、やはり現実世界は何が起こるかわからない。 メインは防御重視。 サブクラスには汎用性の強い『魔法学者』を設定しておこう。魔法学者は、攻撃魔法、回復魔法、補助魔法を随時切り替えて使うことができる便利なクラスだ。
しかし……。
改めてこちらの世界に戻ってきたが、こっちの世界は平和だな。 普通に生きている限り命の危険はないし。せっかく異世界の力をもっているのに、何かできることはないだろうか。
いろんなところを旅したりは面白そうだが、行ったことのある場所しか転移できないしなあ
別にこの力で誰か倒したい相手もいないし……
とか考えてたら。
いた。
目の前に。
本来なら居ないはずの誰かが!
フゴゴゴ
オークがいる!
うちのベランダに!今、我が家には扉は存在していないが、もしかしてどこかにある扉を通ってきたのか?
空から一緒に落ちてきたとは考えにくいし、もしくはまた別のルートがある?
「?」
「あ」
目が合った。
一瞬の間があったが、オークは手に持っている斧をこちらに振りかぶっ……
ガン
部屋の天井に当たって電灯の部品が飛び散る。
「オイイイイイ!」
ドゴス!
とっさに拳で殴ったら、オークの上半身は爆散した。
ぐら……
ゆっくりと崩れ落ちていくオークの身体。
うわ、床汚れるのヤバそうだな。
とか思っていたら、オークの身体は少しずつ光になって消えていった。
くそ……電気の修理代……敷金……
いやそんなことよりもだ。
扉が出現し始めたことにより、向こうからこっちにモンスター達が侵入してこれるようになったのであれば、それはとてもヤバい。
一旦気を取り直してカレンダーを確認する。元々ソーファンの世界の一日は、地球時間では1時間である。
つまり時間の流れが24分の1。
今回向こうにいた時間はほぼ丸2日ぐらいだったので、もしその法則が適用されているのであれば経過時間は2時間ほどのはずだ。
……。
うん。やっぱりそうなってる。この奇跡的現象を起こしているのが向こうの女神様なのか何なのかわからないが、その辺は変更なしらしい。
とはいえあまりにも長い時間滞在すると、日常生活に支障をきたすので気を付けたい
行方不明の届け出とか出されたら、厄介この上ないし。
それよりもさっきのオークよ!
他にもどんどん出てくる可能性を考慮するなら……
しばらくは町の様子を警戒して過ごさねばならない。
と思いつつも……
今日は朝起きてすぐ異世界にて衝撃的な体験の連続だったので、本日分の実験のノルマをこなしていなかった。
こちらの世界ではたった二時間しか経っていないとはいえ、身体的には普通に数日たっている。
しかも環境の急激な変化で、かなり疲れているが仕方ない。
異世界に行く前も大学に行く途中だったので、格好はそのままで問題ないだろう
(といいつつ、本当は伝説の武具が装備されているのだが)さて大学までは自転車で10分ほどだ。
行こう。移動途中の小さな丘には神社があり、そこの階段を上ると少しだけ町が見渡せて景色がいい。
そんなことを考えながら走り抜けようとしたが、俺はとっさに急ブレーキをかけた。
自転車の後輪がわずかに浮く
ソーファンの世界では自分の向きや立ち位置を把握するミニマップがあり、そこにNPCや敵キャラが色違いのポイントで表示されているのだが……
そこに……この世界ではありえない、『敵』を示す赤のポイントが映し出されていた。
場所はこの斜め上……。
つまり丘の上にある神社の境内だ。
まさかオークに続いて別のモンスターが現れた?
……念のため準備をしておこう
「エクスカリバー(オート回復)、イージスシールド(魔法防御特大)」
防御重視の装備に切り替えながら、階段をてくてく上る。
運悪く、今日は土曜日だったらしい。
境内にはそこそこの参拝客やお散歩中の人がおり、なにやらお社の奥の茂みの中に人だかりができている。
静かに近づいて皆の視線の先に目をやると……
いやこれ、俺がさっき落ちてきたクレーターだわ。
……だけど、皆が見ているものはそこではなく、その周辺をうろついている巨大ガニ。
……カニ!?
どうみてもあの色味と巨大さは昨日爆散させた『密林の王キンググローブ』だけど、周囲に餌になりそうな人間がいるにもかかわらず、うろうろするばかりで何もしていない。
しかも周りの人々のざわつきに耳を傾けていると少し違和感に気づく。
「なんかあそこだけ草が動いている」
「ガサガサと謎の音だけが聞こえる」
「陽炎のようにあの一帯の光が揺らめいている」
……もしかして俺以外の人にはモンスターが見えていない?
それでいて存在はしている?
ブンッ
ガサガサッ…!
キンググローブが大ハサミを振り回し、木が大きく揺れた
『なんだなんだ…!』
集まっている人たちの足が数歩下がり、人の輪が少し広がった。
現実世界の人間に対しては敵意がなかったとしても、物理的にこちらの世界に干渉できているのであればこれはいつか絶対事故が起きる。
なんとかして目立たないようにこいつをやらなくては……。
仮に視覚や聴覚を周囲から遮断する魔法を使っていたとしても、一撃を放った瞬間に魔法は解除されてしまうし、かといって遠距離で魔法で倒すなどしたら大目立ちである。
……いやまてよ。
俺は少し距離をとって黒の魔導書を取り出し攻撃魔法の準備をした。
そこからゆっくりと観衆の視線を集めないように注意を払いつつ、カニの方に向かおうとする……その瞬間だった。
グギョッ!!
突如目覚めたように、キンググローブが俺に反応して爆走してきた!
予想してなかったわけではないのだが、もしかして俺だけモンスターに認識されてて通常の敵対反応をしてくる!?
『なんだ!!!??怪物!!!??』
しかも周囲の反応からして明らかに可視化されているようだ。
俺が戦うべき相手が、俺に敵対心を発生させると実体化するとか厄介すぎるだろ!
まあいい。先ほど考えた作戦を遂行しよう。
俺は二本の指先で敵の位置を指し示しつつ、呟く。
「雷の精霊よ!(一条の光となって敵を撃て)」
カッ
ドン!!!
『うわ!!!』
一瞬の輝きの直後。
周囲の人々の叫びと稲妻の轟音が重なる。
空から極太の雷が落ちる。
海鮮居酒屋のような匂いが、辺りにもわっと立ち込める。
一瞬で焦げ付いた密林の王は、そのまま光となって消えていった。
突如現れた謎の怪物に対し、偶然空から落ちてきた雷が直撃。
しかも場所は神社という神秘的な空間である。
これできっとうまい具合に都市伝説になって終わる……といいけどなあ。
にしても俺が出てきたところと同じ場所に敵が出る、というのは偶然とは思いにくい。
それに、もし空に在った扉から出てきたのであれば、そこから何百メートルも自然落下して、あんなにデカくて密度の高さそうな物体が無事なわけがない。
そして出てきているのは今のとこ、俺が向こうの世界で倒したことのあるやつばかり……(とどめ刺したのはマリチだけど)。
無関係であってほしいけど……これは絶対関係あるよなあ。
俺はむくっと起き上がったそこはマリチの家の庭「元凶になったドラゴンを倒したのに……なんで私たちはまた異世界なんだろうね」ぶっ倒れていた俺の横に座っていた日枝薫が少し不思議そうに呟いた「……」―――俺が望んだからだ。まだこの世界の探索は始まったばかりだしやらなきゃいけないクエストもイベントもいっぱい残っているからな!「みんなどうやってここに?」素朴な疑問だ「私は家で勉強してたら部屋に扉が出たから。そこから入った」妹の曜ヒカリがとんでもないことを言った「湊くんとマリチさんが消えた後、あそこに扉が出たので」なるほど俺たちが飛ばされた後の話か「私は女神さまに会ったよ」マリチは腕を腰に当て、ふんぞり返りながら言った確かにあの時マリチも一緒に飛ばされていったからな……「あ、そうなんだ。なんて言ってた?」マリチは少し空を見上げながら考え込む「あんまり覚えてないな……お礼を言われた気はするけど」「そうなのか」「あ、でも。マリチにも扉、見えるようになりました」『えっ』衝撃の発言に、俺と日枝さんと曜がそろって声を上げる「てことで、これからはそっちにも遊びに行こうかなと」それとんでもないことになるやんこのお気楽な最強女子を俺たちの現実世界は受け止められるんか?「じゃあ私もまた冒険しに来ようかな」曜はえへへと笑いながら言った俺にとってはライフワークなのに、へらへらしながら言ってるんじゃないよ「それよりさ」マリチがニヤリと笑った「そろそろ深海の悪魔が湧くころだよ。行くよね?」『深海の悪魔』それは魔の海域と呼ばれる場所にひっそりとある海底洞窟に
「無明拳。からのもっかい無明拳」ガン!……ガン!!必殺拳を二連続で命中させることにより、連携空間「極光」が発生する。俺はそこにすかさず聖球の魔法をぶちこむ。龍の頭部が大きく後ろに揺らめき、側頭部の結晶がはじけ飛ぶ。が、大きくのけぞった頭部は再び遠心力をつけて攻撃してくる。口を大きく開いて噛みついてくるのを、すかさず割り込んだ俺が受ける。マリチはそれを当然のことのように感じているのか、感謝をすることもない。 そもそも最初から回避をする気もないようだ。龍は相変わらずレーザーを撃ってくる。たまにマリチをかすめることもあるが、武術家の膨大なHPで致命傷には至らない。しっぽや噛みつきといった特大物理攻撃に関しては、俺が先読みして受ける。「無限・羅刹衝」マリチの両手から放つ衝撃波が、龍の腹部を大きくへこませた。その衝撃で最後まで残っていた星核結晶に大きなひびが入り、バラバラと剥がれ落ちる「ああ……やっぱり蛇だったんだなあ」虹色の結晶核をすべて剥ぎ取られた龍は、もはや『龍』とは呼べない。翼は捥がれ、たくさんの角のように伸びていた結晶は全部砕かれ、全身は光沢のある白い鱗でおおわれている。かろうじて残っている小さな四肢が、蛇をまだ龍だと言わしめる。「極大雷撃槍」マリチが腕を振り上げて、巨大な雷魔法の槍を放った。バリバリバリバリ……!!だが電撃は龍に当たるか当たらないかのところで、虹色の障壁に阻まれる。「結晶の鎧がなくとも、そもそも星核の力を吸い取ってるから魔法は効かないか」俺は冷静に敵の動きを見ながら、何が効いて何が効かないかを観察していく。 (決して横で解説してくる謎のおじさんになっているわけではない)が、そんなことは一向にお構いなしの奴がここにいる。「連続流星群」マリチが両手を大きく広げ、その手をまっすぐ上にあげる。と、同時に龍の上空に無数の魔法陣が現れて巨大な隕石が落ちてくる。それを防ぐべく、龍の身体に無数に現れた防御障壁の輝きで、辺りはまるで昼のように輝く。だがマリチの攻撃はとどまることがない。「漆黒の闇を統べし者、我が求めに応じ疾くきたれ。いでよ冥王」素早く両手を回して魔法陣を生みだすと、そこから黒い巨大な人型の深い闇が現れる。「世界を律する滅びの鳴動。審判!!」イバラの様に伸びる無数の黒い稲妻が、アメノ
淡い光の道を駆け抜けたその直後。……夜か。辺りは闇に包まれていた。眼がまだ慣れていないためほとんど何も見えないが、ここがどこかは予想がつく。転移魔法は一度行ったことのある場所しか行けない。龍が現世でゆかりのある場所は、あの奥宮しかないはずだ。 ……だが妙だ。静かすぎる。あんな巨体、境内に隠れる場所などほとんどないはず。さらに言えば黒竜が現れた際に、ほとんどの木が吹き飛んでいる。何処にいても剥き出しになるはずだ……いくら夜の闇の中だとは言え、まったく見えないということは……。ここではない別の場所に現れているのか……?俺は戸惑いの中、一瞬だけ後ろを振り返ってみた。遠くには町の小さな光が綺麗に見えている。やはりここはあの奥宮のあった高台。そして扉がつながったということは……はっと気が付いた。――暗すぎる。昨日はちゃんと月が出ていた。今日の月齢こそ正確にはわからないが、満月に近い頃合いだったはずなのにこの闇の深さ。俺は本来あるべき月を見上げた。 やはり―――そこにいたか。異世界と現実世界を結ぶ、伝説のモンスターただ……その姿は――「カオスドラゴンになっとる……」先ほどまでの星の核の上で戦っていた時は、長い身体をくゆらせる蛇体だった。今はそこにドラゴンの様な翼膜を備えた巨大な翼を持っている。もしかして単純に、飛ぶ必要がない時は収納可能だった?元々ソーファン世界で戦った時は無駄にホバリングしていた。ゲームだとバトルフィールドは閉鎖空間なので、その飛行能力に意味はなかったが、ここは何でもありの現実世界。大型モンスターの飛行移動は、被害の桁を変えてしまう。「マズいぞ……」小さな蛇神様だったときのアメノミカヅチがどういう神さまで、どういう経緯でここに祀られていたのかは分からない。だが無理やり召喚されて、暴走するほどのエネルギーを与えられ、モンスターに成った状態で、ここに戻ってきたのだ。女神さまの意思でもあり、異世界の精霊たちの意思でもある。二つの世界のバランスを取る者(自称)として……大変申し訳ないのだが、龍の神さまにはもう一度お鎮まりいただく!って……俺が負けたら、この龍で世界が滅びるかもしれないな……あ、でもそうなったら次は別の世界からたくさんの勇者たちがやってきて アメノミカヅチを倒すという第
戦いは始まった。巨大な水の槍は龍の輝く鱗をバキバキと砕きながら突き進む。しかし圧力は少しずつ弱まり、やがて水飛沫へと形を変えて消えていく。全ての水が飛び散り霧散しても、龍の硬質のたてがみを破壊しきれてはいない。周囲の星核結晶と同じ淡く発光していた龍の身体。 しかし、ゆっくりと動き始めると同時にその光が消える。……充電を途中でやめた。みたいな状態?鎌首を持ち上げるように上体を起こすと、龍の胴体は硬質の結晶同士が擦れあう轟音を立てながらこちらに這い寄ってきた。俺はまだ敵との距離がある間に、カオスドラゴンを『調べる』《星龍 アメノミカヅチ》『その強さは計り知れない』と表示されている。ステータスや体力ゲージなどはどこにも見えない。……今のでどれくらいダメージを与えたのかも分からないな。時間制限のある絶対防御を最初から使ってしまうのはマズい。相手の攻撃の威力が判断できないし、長期戦の戦略が組みにくくなる。「俺がダメージをもらった時の回復は任せる!」龍から距離を取って下がっている日枝さんに、俺は合図を出しておく。「わかった!」俺は威嚇のための閃光魔法を放った。そこか。とでも言うように、龍がこちらを向く。その動きは龍ではない。蛇だ。というか、この龍は……蛇なのだ。異世界にて強大に成長したことで龍に成ったのだ。アメノ(天に棲まう)ミカ(門を制する)ツチ(蛇)なのだ。何処にあるかもよく分からなかった口が、裂けるように横に開いた。……その姿も蛇をほうふつとさせるヴァハッ無数の小さな何かを飛ばしてくるその動きは、さながら毒を吐きかけるが如く。高速で飛んでくるその何かを、俺は身幅の広い両手剣で受け止める。「結晶の欠片か…!」 それは細かく砕かれたような無数の結晶の破片だ。全てが尖った鋭利な構造をしており、刺さると厄介そうである。この巨大な敵と戦うのに、小細工は必要ないだろう。俺は剣を振りかぶると、思い切りよく胴体に切りつけた。ガギッ!!うん。まあ、めちゃくちゃ堅いが、一応ダメージは入るな。「無双連斬」25回攻撃。ドガガガガガガガガガガッガガッガッガが、モーションが長すぎる。途中で巨大な尾による薙ぎ払い攻撃が飛んできた。攻撃をキャンセルして剣で受ける。ドガッッ身体が浮かされ、100メートルぐらい飛ばされた
「で、どこにいるの? カオスドラゴン……その……アメノミカヅチ様は」「それなんだよな……」ソーファン世界で戦ったカオスドラゴンは、星の核に寄生していた。 戦いは謎の異空間みたいなところで行われていたが、あれはどこなのか。通常の方法でその場所には行けないだろうから、こちらから挑むことができない。ソーファン世界のモンスターは俺たちを感知してから実体化していたが、それはおそらくこちらの世界とのつながりが弱かったからなのだろうだがカオスドラゴンは元々こちらの存在……。もしこっち側に出たら、最初から実体化してるのではないか?「元々ここでお鎮まり頂いていたのなら、実は良い神さまだったりしない?」俺の不穏な予測とは裏腹に、日枝薫が素朴な疑問を口にした。が、それはないんじゃないかな……。何故なら、暴走して魔獣と化したからこそ討伐イベントが発生したのだ。そしてそもそもに俺が異世界に行くことになったのも、倒さなければならない存在だと判断されたからだろう「暴走したソイツと戦ったのが事の始まりだからなあ……」「ダメかぁ」やはり被害を最小限にするにはまだ活動を始めていない今、倒すしかない。「なんとかしてこっちから行くしかないな」「やっぱりそうなるか……」いままで扉が出たり出なかったりする条件がいまいちわからなかったが、今ならなんとなくわかる扉はおそらく必要に応じて出してくれてたんだろう。全ては『龍』を倒すことにつながるように。「じゃあ行ってくる」俺は魔導書を出し、転移魔法を唱え始めたガシッ魔導書を持っている手首を掴まれた「私を置いていくつもり?」詠唱は一瞬にして完成してしまっている。日枝薫の表情を確認する間もなく、転移空間は俺たち二人を飲み込んだ ブオォォン腕を掴まれたまま俺たちが出てきたのは、アパートの風呂場。すなわち光る『扉』の前だ。 なにかを訴えかけるように、いつもより輝きが強い気がする。「行けってことだよね」電気がついていない夕暮れ時の風呂場である。薄暗い室内でなお、日枝薫の目は輝いている。「いや、俺だけで行くよ」強すぎる敵である。 以前戦った時にわかったが、レベルマックスの俺たちと対等のモンスターだった。まだ装備やレベルがマックスではない日枝さんが戦うのは危険だ。「君の言いたいことはわかる。でも支援ぐらい
大学の図書館にめぼしい発見はなく、街の図書館にて見つけた情報。ようやくそれらしい記述を見つけたかもしれない。俺はバリバリに理系で、こういうジャンルの専門家でもない。……だからこれはあくまでも想像の域を出ない。 記紀(古事記・日本書紀)には載っていない古い郷土史、風土記の記述。いわゆる地元以外では知られない、小さなお社などの看板等でしか見ない物語。そこに登場しているお宮の名前は『神戸(カミド)神社』主祭神はふつうに天照大御神、と、地元の氏神様。 けどそのお宮の隅っこに摂社として小さな祠がある。そこに祀られている『門蛇大明神』とやらの御祭神が。『天之御門蛇(アメノミカヅチ)』 または 『天石門別蛟(アメノイワトワケノミズチ)』という謎の存在。これは有名な天岩戸伝説に関わっているらしい。 いわゆる、天照大御神が天岩屋に隠れたという有名な物語だ。御門というのはその時に洞窟をふさいだ岩の事。門の神さまである。岩の洞窟の入口を岩で防いだら普通、隙間が結構できる。自然石と自然石なのでピッタリ合わさることにはならないからだ。しかし岩戸は結界となり外界とは隔絶される。その岩戸にできる、ほんの小さな隙間を通り抜け、出入りできるモノが居た。岩戸隠れした際に隙間から出入りし、天照大神の話し相手になっていたのがこの……『アメノミカヅチ』という、神というか……蛇の妖怪だ。この物ノ怪は、岩戸の隙間を何度も出入りしていた。 つまり、結界をくぐり抜ける力を持っていたと考えられる。それこそが門を越える力……。現実世界と異世界の次元を飛び越えられる力?ソーマファンタジーという異世界において、一万年前にあった星核の暴走の際。そのエネルギーを喰わせるために元になった、神獣と呼ばれるモノの正体。 これかも……。人智を越えている。 だが、筋は通る。次元を超える力を持っていた存在だったからこそ、異世界から何らかの方法で召喚されたのかもしれない。だが……もしそうだとすると、カオスドラゴン……アメノミカヅチは、いつかこちらに還ってくるのだ。俺と同じように異世界の力を手にして。何故最初のきっかけがカオスドラゴン討伐だったのか。この町に住んでいた俺が代表として選ばれて異世界に行ったのか。全ては繋がっていたに違いない。俺である必要がない気も少しする







